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メイド喫茶

この日、シリアはハマの宿で日本人の女の子(21歳)に会った。
アルバイトを休んで、3週間の旅に出て来たそうだ。

「なんのアルバイトをしているの?」
「メイドです」
冥土?・・・ああ、メイド。家政婦か。若いのに。

と思ったら、そのメイドではなかった。
”メイド喫茶”のメイドさんだった。


メイド喫茶の存在は知っている。5年前、東京に住んでいた頃、徒歩圏内の秋葉原の一角で、見かけたことがある。それはいわゆる喫茶店なのだが、ほかと違うのは、ウェイトレスの女の子たちがぴらぴらしたワンピース、つまりはメイドの格好をしていること。

店内に入ったことがないので、違いはウェイトレスの格好だけかと思っていたが、この日、現役のメイドさんに話を聞いて、そうじゃないということが分かった。それは、とにかく、とても衝撃的な話だった。わたしの受けたカルチャーショックは、アフリカで受けたそれよりもずっと大きかった。


お店で働く女の子たちのうち、21歳の彼女は最年長だと言う。下は16歳から(15歳もいたらしい。違法じゃないのか?)で、現役高校生も多いという。応募資格は22歳まで。

客が店に入ってくると、女の子たちは「お帰りなさいませ、ご主人様」と言って迎えるらしい。客が出て行くときは、「行ってらっしゃいませ」と。女のお客さんが来たらどうするの?と聞いたら(実際たまに来るらしいが)、「お帰りなさいませ、お嬢様」と言うのだそうだ。

つまり、店はあくまでも”家”であって、客はそこに帰ってくる主人という設定。だから通常の喫茶店で使われるような「いらっしゃいませ」や「ありがとうございました」は言ってはならないのだという。

テーブルについた客が何をするのかというと、まあ喫茶店なので飲み物を頼む。そしてメイドと友達のようにお喋りしたり、ゲームをするそうだ。メイドの女の子達が客の隣に座るということはなく、ゲームは、トランプやオセロやTVゲームといったもの。ゲームをする際は、一緒に遊ぶ女の子を指名でき、若干の指名料が発生する。(彼女はそれを”萌え”料だと言った。)

しかしキャバクラとは違う。女の子に触ることはできない。酒も出ない。(主に酒を出す”メイド・バー”というものも別にあるらしいが。)営業は平日の午後5時から10時までと、いたって健全な店のようだ。

メイドの女の子達の時給は、通常のウェイトレスよりもはるかにいいので、毎日のように応募者が面接に訪れるというが、実際採用されるのは月にひとり程度というから、公務員試験並みの狭き門だ。


更に、彼女の勤めるお店では、ウェブ上で女の子達のブログを公開しているそうだ。そこには女の子達の写真も載っていて、それをクリックすればお気に入りの女の子の”きらきらした”ブログが読めるという。(”きらきらした”というのは、絵文字や記号を多用した文章のことらしい。)個人的に写真撮影会を開催するメイドさんもいるというから、もはやそれは、アイドルに近い存在なのかもしれない。

客層は幅広く、若い子から年配の人までさまざま。いかにもモテない風采の人ばかりでなく、若くてそこそこ格好いい男の子も来るらしい。中には、ほとんど毎日やってくる客や、毎週末、四国から飛行機で飛んでくる客までいるというから驚き。


「こういうの、欧米の旅行者に話しても理解されませんよね」と彼女は言う。そりゃそうだろう。こういった”オタク文化”は、ヨーロッパの一部の若者に支持されているとはいえ、国際的理解を求められる文化(そもそも文化なのか?)にはなりえないだろう。
ブルセラが流行った少し後、イギリス人旅行者に「なんでハイスクールの女の子達のパンツやユニフォームを大人が買うの?」と聞かれて、言葉につまり赤面したことがある。

綺麗、大人っぽい、セクシーが好まれる傾向にある欧米の一般的価値観と、かわいい、幼い、隠れた色気が好まれる日本の多数派意見は、相容れない。


彼女の話を聞いていて面白いと思うと同時に、げんなりした気持ちになってきた。店内に入っていって、高校生のメイドときゃっきゃ言ってトランプに興じる大人達の顔に、コップの水でもぶちまけて、「目をさませよ!」と言ってやりたい気分になった。

「現実の世界で女の子と喋ることができない大人にとって、ここは道場なのだ」と、彼女の勤める店の店長は言うそうだ。確かに、日頃女性との付き合いがない人にとって、そこは練習の場所としての役割もあるかもしれないが、所詮は客と店員であり、そこではどんなつまらない話をしても、あるいは失礼な話をして失敗しても、現実社会のように非難されることはない。だからこそ彼らはそこへ通うのだろうが、それは現実逃避に他ならない。現実の社会で、失敗したり失恋したりしなければ、意味がないのでは?

と、偉そうなことを思って至った思考の先は、自分も現実逃避の最中だということだった。でも、わたしが旅をしている場所はバーチャルの世界じゃないし、泥棒もいれば悪人もいる、生身の世界だ。ま、どっちも一般社会からはずれてるって意味では同じか。


話は変わって、最近の日本のワイドショーネタになった。
「モー娘。はどうなの?」と聞くわたしに、「モー娘。古い~。」と彼女。今波が来ているのは、秋葉原から発生した”AKB48”(48人もいるらしい・・・)というアイドルグループなのだそうだ。
「お笑いは?」と聞くと、「オリエンタルラジオかな?きもいけど」と言う。ああ、オリエンタルラジオ。どこかの日本大使館の多重国籍者向けのポスターに載ってたわ。
去年の紅白の頃に聞いたレーザーラモンHG(?)とかいう人は、どうやらわたしの帰国を待たずに、消えていってしまっているらしい。

日本の流行の移り変わりはすごいね。3年で、すっかり浦島太郎みたいになってしまった。帰国して、はたしてこのスピードに付いていけるだろうか・・・。

なんか、婆くさい気持ちになってきたので、この辺でお仕舞いにしよっ。

by tomokoy77 | 2006-12-08 22:31 | Syria  

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