カテゴリ:Bolivia( 14 )

 

カート・コバーン?

e0040591_8161123.jpgボリビア第3の都市スクレで、ミュージシャンのサイン入りポスターが壁にたくさん張られているカフェに入った。甘いクレープが最高に美味しかった。

右端の大きな写真を指差して、「カート・コバーンって誰?」と聞くわたしに、一緒にいたふたりは絶句していたけど。
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by tomokoy77 | 2006-01-31 08:15 | Bolivia  

足の下の空 2

e0040591_7571630.jpg朝陽が昇った。
地平線が燃えていた。

昨晩沈んだ夕陽と同じように、太陽は頭の上と足の下にひとつずつ現れた。

目の前の光景は、脳の認識力の限界を遥かに超えていて、訳が分からなかった。ここが別の惑星とでも言うのなら、理解できそうなものだけど。


e0040591_7573954.jpgそういえば昨夜は宇宙の中を歩いた。そして今朝のこの光。この雲の色。

ブエノスアイレスからバスと列車を乗り継ぎ、2泊3日かけてウユニまで来たけど、あの時乗ったのはバスでも列車でもなく、宇宙船だったのかもしれない。そうか、やっぱりウユニは別の星なんだ。


e0040591_7575098.jpgそんなことを真面目に考えてしまうほど、その光景はどうかしていた。

朝6時に迎えに来るはずのランクルは、7時を回っても現れなかった。ボリビア時間。1時間や2時間の遅れは当たり前。

でもいいんだ。どれだけ見ていても見飽きない景色の中にいるから。

ふたつの太陽はどんどん離れていく。

上、下、右、左。
方向感覚が無くなって、体が宙に浮かんでいるみたいだ。


e0040591_7581485.jpg西の空に虹が架かった。3本も架かった。
虹は地平線を境に折れ曲がり、湖に映って長く伸びた。

南の空から、虹を横切るようにして一羽のピンクフラミンゴが飛んできた。長い首を優雅に持ち上げて、私たちの目の前を飛んでいった。

きれいとか、すごいとか、そういう感情の針はとっくに振り切れてしまっていた。

キャパを超えてる。まいったな。
こんなところに来ちゃって、もうこれ以上どこへ行こう?帰国するしかなくなっちゃうよ。


e0040591_845765.jpg あの人、大丈夫かな?
 死んじゃったみたいだ。

 うん、まずいね。
 もう帰って来ないかも。

 呼んだほうがいいかな?

 放っておけばいいよ。
 戻りたきゃ戻ってくるし、
 戻ってこなきゃ・・・
 それはそれでいいじゃん。


e0040591_7591089.jpg7時半、ようやく迎えに来たランクルは、ホテルを出てすぐに故障した。とんでもなく塩分濃度の高い水の中を走っていくのだ。無理も無い。

一度ホテルに戻って別の車に乗り換え、再び走り出したランクルは飛沫を上げて快調に走り出した。めざすはイスラデペスカード。

塩湖の中には車のタイヤ痕が曲がりくねりながら黒く残っていて、ランクルの屋根の上から見るそれは線路のようだった。
どこかでみたような光景。ああそうだ。千と千尋の神隠しで、千尋が乗っていった電車みたいだ。


   あおいそら、しろいくも

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e0040591_7594329.jpg3時間、車は空の中を走り続け、遠くに目指す島が見えてきた。

乾季にも訪れたこの島は、上から見ると魚の形をしているためにイスラデペスカード=魚の島と呼ばれているらしい。

雨季のウユニでは、島も空に浮いているみたいだった。


e0040591_80028.jpg天空の島は相変わらずサボテンだらけだった。

雨季のウユニは毎日のように雨が降るのに、そんななかでサボテンが生きて花を咲かせているのは不思議だった。サボテンは多量の水を嫌う植物じゃないの?
不思議な場所も知らないことも、まだまだたくさんある。


    ここへ来て良かった。

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e0040591_803079.jpgせっかくだから、宣伝しちゃお。
今回塩湖の中を何時間も走ってくれたのはトヨタのランクル。

いくらオフロード用とはいえ、この車がここまで過酷な状況で使われるって、トヨタは想定してたのかな?
いずれにせよ、さすが世界のトヨタ!
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by tomokoy77 | 2006-01-27 08:00 | Bolivia  

足の下の空 1

 空の中、散歩しない?

e0040591_739533.jpg突然そんなことを言うのはたぶん、よっぽどのロマンチストか空想癖の持ち主、あるいは筋金入りのドラえもん愛読者ぐらい。
でもここに、彼らの夢を叶える場所がある。

ボリビア南部、ウユニ塩湖。わずか2ヶ月前に訪れたばかりのこの場所に再びやってきたのには訳がある。

毎年1月から3月の雨季の間だけ、乾いた真っ白な塩湖の上に水が張る。空が晴れ風が凪いで湖の表面が静まると、湖面は鏡となって空を映す。見渡す限り空しかなくて、空中に浮いてるみたいだと聞いた。どうしても空の中で散歩してみたくなったのだ。


e0040591_739525.jpgそれは本当に見渡す限りの空だった。上も下も空。
写真じゃ伝わりにくいけど、見渡す限り空しかないんだ。

頬っぺたつねってって隣の人に頼みたくなるほど非現実的な光景。
夢と現実、その境界があいまいになって怖いくらいの景色。


e0040591_7415099.jpg 死んだんだっけ?

 いや、生きてるでしょ。

 本当に?

 ・・・・・・たぶん。

”天国みたい”なんて陳腐な喩えも、ここでは使わざるを得ない。サンダル脱いで、くるぶしまで水に浸かって、空の中を歩いていく。

振り返ったら全部消えてるかも。
空の中にひとり取り残されてたらどうしよう。
吸い込まれそう。振り返るのが怖い。
このままもう、戻れなくなるかもしれない。


e0040591_7422628.jpg夕陽が沈んだ。
現実の空の中で太陽はいつものように上から下へ沈み、湖の中の空では太陽が下から上へ昇って、ふたつの太陽は地平線でひとつになって消えた。

沈む夕陽と昇る朝陽をいっぺんに見ているみたいだった。
これからやってくるのは夜だろうか、それとも朝だろうか。


e0040591_7425635.jpg夜になって、雨が降った。空には厚い雲がかかり、星空は期待できそうになかった。
いちるの望みをかけて目覚まし時計をセットして眠り、午前2時、その音で目を覚ます。

ありったけ着込んで外に出る。玄関を出たところで素足のまま湖に入ると、その水はつま先から凍っていきそうなほど冷たかった。

空は相変わらず雲で覆われていたが、わずかな切れ間から星が見え、それが湖に映っていた。
星、踏めそう。そう思って近づくけれど、湖の中の星はわたしの歩く速さにあわせて逃げていく。


e0040591_7405228.jpg星を追っかけて遊んでいるうちに、空がみるみる晴れてきた。北の空、地平線間近に北斗七星が現れ、西の空にオリオン座、南の空に南十字星、そしてさっきの曇り空が嘘みたいな天の川。あっという間に、見上げても見下ろしても目に入るのは星ばかりになった。

オリオン座踏んで、天の川を渡り、星を拾う。
宇宙の中を、散歩。

流れ星が流れた。いくつも流れた。数時間前見た夕陽のように、上から下へ、下から上へ流れた。オリオン座が半分沈むころ、空は再び雲に覆われてしまった。それを見届けて、ようやく部屋に戻った。

長いこと冷たい水に浸かっていたせいで、数日後しっかり風邪をひいてしまったけれど、今でもあの晩見たものは、やっぱりただの夢だったのかもしれないと思う。
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by tomokoy77 | 2006-01-26 15:37 | Bolivia  

ウユニ塩湖 4

ツアー4日目。

e0040591_634028.jpg今日も、朝日がきれいだ。



e0040591_6349100.jpg温泉が現れた。
湯温30度ちょっとと、日本人にはぬる過ぎる。

欧米人は喜んで浸かっていた。
寒くないの?
わたしたちは足湯だけ。


e0040591_694549.jpgラグーナ・ベルデ。
翡翠色の湖。

この向こうは、もうチリ国境だ。

わたしたちはチリには向かわず、
ウユニの町に戻る。


e0040591_695240.jpgなんて不思議な山の色、砂の色。


e0040591_6101122.jpg時間が止まったような、小さな町。


e0040591_6132570.jpgいくつ見たって見慣れない、不思議な岩。

ランクルは7時間走り続け、
3日ぶりにウユニに帰る。




※ウユニ塩湖ツアー

日帰りで塩湖のみを見るツアーから、3泊4日で塩のホテルに泊まるもの、
2泊3日でチリ抜けするものなど色んなタイプのツアーがあるが、
長いツアーを断然お勧め!

塩のホテルを扱っている唯一の代理店「Playa Blanca」は悪評高いが、
実際利用してみると、言われているほどひどくなかった(約束の時間に遅れて来るくらい)。
ほかの会社のツアーでも塩のホテルを見学することはできるが、
泊まることができるのはこの会社だけ。

塩のホテルに泊まった感想としては、「めっちゃ良かった」。
塩湖サッカーや、地平線に沈む朝日と夕日など、
この宿に泊まらないと味わえないイベントは多い。

ウユニ塩湖は本当に良かった。マチュピチュよりも、ずっと良かった。
でもできれば雨季に来たかったな。

春とはいえ寒いので、しっかりした防寒着は必携。
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by tomokoy77 | 2005-11-23 06:00 | Bolivia  

ウユニ塩湖 3

ツアー3日目。

e0040591_5221683.jpgランクルはオフロードをひた走る。

日差しが強くて、焼けるよう。


e0040591_5222381.jpg火星にでも来ちゃったんだろうか?

不思議な形をした岩が、
空に向かって伸びている。



e0040591_5223374.jpg火山と砂漠。
ほかにはほとんど何もないようなところに、
突然湖が現れた。

そこに、何百羽というフラミンゴ。



e0040591_5224076.jpg何食べて、何考えて生きてるの?

こんな不思議な場所で。


e0040591_5282624.jpg奇岩群の脇で昼食。

なんて不思議な岩の砦。
こんな景色、誰が作ったんだろう?



e0040591_5351645.jpg木になった岩?

岩になった木?


e0040591_5352669.jpg人間は、この景色に似合わない。

もっと不思議な生き物じゃなきゃ。



e0040591_540533.jpg今日の宿泊地、コロラド湖に到着。

赤い湖。
カモメみたいな白黒の鳥が飛んでいる。


e0040591_541959.jpg人懐っこいリャマがいると思ったら、
ドラム缶の中に捨てられたバナナの皮を
取ってくれって言ってるんだった。



e0040591_5413599.jpgそんなに長い首して、
自分で取れないの?

しょうがないなあと取ってやると、
もりもり食べて、笑顔になった。


e0040591_5412410.jpgリャマはかわいいけど、会話が通じない。

やっぱり、
友達になるなら犬のほうがいいな。


e0040591_5495017.jpg地上からじゃ赤い線にしか見えなかった湖も、
裏山に登って見ると、
本当に真っ赤な湖だった。



e0040591_550269.jpg山から下りて近づいて見ると、
湖の周りは黄色やピンクの泥で覆われていて、
まるで花畑みたいな色になっている。

毎時毎秒続く不思議な景色に、
もう頭がついていかない。


e0040591_5548100.jpgここはいったいいつの時代?

ここはいったいどこの星?
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by tomokoy77 | 2005-11-22 08:17 | Bolivia  

ウユニ塩湖 2

ツアー2日目。

e0040591_4435779.jpg頑張って早起きして朝焼けを見た。

わたしは夕日より朝日のほうが好きだ。



e0040591_444523.jpg2度寝して起きてみると、空は快晴。

飛び跳ねるくらい気持ちいい!



e0040591_4524120.jpg遠近法を利用して、
こんな写真を撮って遊んだり。



e0040591_4541783.jpg塩のホテルの跡継ぎ(?)ケビン。

元気でね。
雨季にまた会おう。


e0040591_458763.jpgお昼に塩のホテルを出て、
塩湖の奥に向かってどんどん進む。

辺りはいよいよ真っ白。
写真をとってもこんな感じ。
白と青だけ。


e0040591_4581883.jpg突然島が現れた。

「イスラ・デ・ペスカードだよ」と
運転手のおじちゃんが言う。



e0040591_4582549.jpgその島は、サボテンだらけだった。

なんて不思議な眺め。
白い平原に、サボテン島が浮いてるなんて。



e0040591_555827.jpg気分はまるで「猿の惑星」。

宇宙船に乗って、
どこか別の星に来ちゃったみたいだ。


e0040591_5103587.jpg昼食はリャマ肉ハンバーガー。

外で食べるご飯ははおいしい。


e0040591_513716.jpg塩湖を抜けて、
今日の宿泊地サンファン村へ。

村外れに、リャマが大勢いたよ。

いい一日だったな。
おやすみ、みんな、また明日。
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by tomokoy77 | 2005-11-21 05:41 | Bolivia  

ウユニ塩湖 1

ウユニから3泊4日のウユニ塩湖ツアーへ。

メンバーは、グアテマラ以来久しぶりに再会したぺス、
岡山のMちゃん、医大生Tくん、わたしの4人。

e0040591_3401180.jpgまずは列車の墓場へ。

100年ほど前にイギリスによって造られたという
石炭で動く古い列車が、ごろごろ転がっている。



e0040591_3424985.jpgすごかったのは周りの景色。

線路が一本ずーっと遠くまで続いているほかは、
360度、地平線までほとんど何もない。



e0040591_3511969.jpgその後
わたしたちを乗せたジープはウユニ塩湖に入った。

あっという間にまわりは白一色。
あちこちに塩の小山ができている。


e0040591_3531091.jpgまるで雪の上を走ってるみたい。

ジープは今晩の宿、
塩湖の中にある塩のホテル
「PLAYA BLANCA」へ向かう。


e0040591_359483.jpg360度真っ白な塩の湖の真ん中に
ぽつんと建っているそのホテルは、
すべてが塩でできている。
壁も机も椅子もベッドも全部。
塩の応接間まであったよ。



e0040591_411598.jpg夕日が沈むまで、サッカーしよう!

標高が4000m近くあるから息が切れるけど、
塩のフィールドでするサッカーなんて、
他じゃちょっと味わえない。


e0040591_448973.jpg頭ん中、からっぽ。
何もない。
あーーー、幸せだ。


e0040591_4111939.jpg夕方6時、夕日が沈みだしたよ。

白一色の平原が、桃色に染まっていく。



e0040591_426459.jpg夕日はどんどん沈んでいく。

瞬きしているその一瞬の間に、
空の色はどんどん変わっていくよ。



e0040591_4393190.jpg真っ赤。
こんなに赤い夕焼けは見たことない。

ばいばいみんな。また明日。
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by tomokoy77 | 2005-11-20 15:33 | Bolivia  

怖い怖いも

ボリビアの首都ラパスに、
週一ペースで日本人旅行者が首絞め強盗に遭っているこのラパスに、
滞在することはや10日以上・・・。

未だ、わたし自身は被害に遭っていないけど(過去に散々やられてるしなー)、
宿を出るたび今日こそはやられるんじゃないかと緊張する。

そんなにビクビクしながらも、なぜか出られない街ラパス。
・・・怖い怖いも好きのうち?
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by tomokoy77 | 2005-11-16 10:43 | Bolivia  

拝啓

お元気ですか。 

ラパスは今日も寒いです。
ダウンジャケットを買いました。 
それでもまだまだ寒いです。


あなたがいたらどんなにいいか。
そう思ったらなんとなく、周りの気温が5度ほど上がり、
急に暖かくなった気がします。

ここにいるのね。 ありがとう。
  
      2005年11月13日 La Paz, Bolivia  

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by tomokoy77 | 2005-11-13 23:17 | Bolivia  

Huaina Potosi 2

e0040591_10404922.jpg午後11時半、起床。結局ほとんど眠れなかった。
シリアルを食べ、アタックザックだけ持って、
午前0時半、H.C.を発つ。

昨日降り続けていた雪のせいで、
トレースは全て消えたと思っていたが、
しっかりとした足跡がついている。
先行するグループがあるのだろう。

e0040591_10421017.jpgそれでも雪は深い。初めて履くプラ靴やアイゼンも重い。
トレッキングとは比較にならない運動量。
歩き出して早々に、ここへ来たことを後悔する。
 
北に、エルアルトの夜景が
赤くゆらゆら燃えている。

e0040591_10423541.jpgヘッドライトで照らしながら、雪の降る中を黙々と歩く。
斜度20~30度。
が、アイゼン歩行のコツが掴めない。
時折ルートのすぐ脇に大きなクラックがあり、
ガイドのエウロヒオとザイルを結んではいるものの、
氷の裂け目の大きさにぞっとする。


e0040591_1043765.jpg2時間ほど歩いたところで、斜度70度ほどの壁に出る。
ここで先行していたフランス人とガイドの2名に追いつく。

「この壁をトレースし直登する」とガイドが言った。
壁を見上げた。ギャグかと思った。

フランス人達が先に行く。
待っている間に体がどんどん冷えていく。

15分ほど待って、ようやくわたしたちの番がくる。
エウロヒオが先に登り、支柱にザイルを固定した後、わたしに「上がれ」の指示。
ピッケル一本とアイゼンで這い上がれという。しかしピッケルの使い方がよく分からない。

そのうえ氷壁には大きな突起があり、それを避けて回り込む時、
右足のアイゼンが壁を掴み損ねて滑った。慌てて左手でザイルを掴む。
下は、クレバスだ。なんとか体勢を立て直す。

素人にこれは無理だ。甘く見ていた。馬鹿だった。
いつクレバスに落っこちるかもしれないわたしとザイルを結んでいる
エウロヒオにも申し訳なくなった。
いくらそれが仕事とはいえ、こんな危なっかしい相手と結ばせるのは酷だ。

もういいよ。ここでいいよ。帰ろうよ。
頭の中ではそう思うのに、言い出せない。

ノーマルルートから北峰を目指すには、この壁を越えるしかない。
ここさえ越えれば。やたらにピックルを振り回して、なんとか登る。

e0040591_10434883.jpg半泣きになりつつ壁を越え、稜線に出る。と、吹雪。
横殴りの風。体が飛ばされそうだ。
温度計を見ると、-8℃。
体感温度はそんなもんじゃないだろう。
目だし帽から出ている皮膚が痛い。


午前5時前。空が明るくなってきた。

途中、何度かクレバスを飛び越える必要があった。
幅はわずか50センチほどか。
しかしその深さを思うと、足がすくんでなかなか跳べない。
ガイドが急かす。「落ちても引っ張りあげてやるから跳べ」と言う。
アイゼンで助走をつけて無理やり跳ぶ。そんなことが3度ほど続いた。

e0040591_10443690.jpg20歩歩くごとに足が止まる。
息をするのがきつくなってきた。
殆ど何も入っていないリュックすら重く感じる。

まだか?まだか?まだか?
吹雪はやんで、空がどんどん白んできた。


e0040591_10475744.jpg午後6時前。歩き出して約5時間半後。
ようやく頂上へと登る斜面の登り口に着いた。

斜度45度。
しかし、下から見上げるその斜面は、
斜度60度にも70度にも見えた。
標高はすでに6000メートル近いだろう。
息は苦しく、足は疲れきっている。


e0040591_10484819.jpgその斜面を見て、先行のフランス人は「帰る」と言った。
「頂上はもうこの上だぞ」と、彼のガイドが説得したが、
「無理だ、帰る」と彼は言い、わたしたちだけが残された。
「わたしも帰りたい」と言えなかった。
そう思っていたのに。

今日初めてのまともな休憩を取る。
カチカチのチョコレートを口に入れ、テルマスから熱いコカ茶を飲む。


e0040591_104947100.jpg午後6時。斜面を登り始める。
エウロヒオがトップで登り、わたしが追う。

斜度45度といっても、この高度感。
下を見ると、斜面の急さに目がくらむ。
ピッケル一本とアイゼンの爪だけでは落ちるような気がして、
つい斜面に膝をついてしまう。
「体を斜面から離せ」と何度も注意されるが、どうにも怖い。

さっき氷壁でアイゼンの爪が氷を掴み損ねて滑ったときの恐怖が残っていて、
3点保持だけでは心許ない。どうやったらもっと楽に登れるのか。
エウロヒオの登る様子をよく観察するが、うまく真似することができない。

e0040591_10503942.jpg青がぐんぐん明るくなって、朝日が昇った。
そんなものは気にも留めず、エウロヒオは黙々と登っていく。

右手でピッケルを立てる。
左足のアイゼンの爪先を壁から離し、
上に持ち上げて氷壁に蹴りこむ。右足も同様に。

e0040591_10522167.jpg1メートル上がる。
そのために使うエネルギーはどれほどか。

右、左、右、左。
氷壁を蹴り続ける足が、ぐったり重くなってきた。
ピッケルを立てる右腕もだるい。

e0040591_10525281.jpgこの斜面は、4ピッチ。距離にして160メートルほど。

たかだかその160メートルに
いったいどれだけの時間を費やしているのか。
時計を見れば、登り始めてもう1時間になる。
2度蹴り込めば、氷壁にしっかりと入りこんでいたアイゼンは、
今や3度4度と蹴り込まなければ固定されない。
ふくらはぎが、疲労で熱い。

e0040591_112392.jpg日はすっかり昇りきり、雪の白が眩しくなってきた。
日焼け止めをぬり、サングラスを出さなくてはいけない。
なんとしても、今それをやらなければいけない。
しかし、そんな気力も体力もどこにもない。
ただこの足を交互に上げる。それが精一杯。

「もっと速く」とエウロヒオが急かす。
「遅れると、下山が大変だから」と。

「下山のことなんか今は考えられないよ!!」と日本語で叫ぶ。
エウロヒオが困った顔でわたしを見下ろす。
・・・八つ当たりしている場合じゃない。喋る気力があったら、1メートルでも登ろう。

ふと上を見上げれば、頂上まではもう10メートルほどか。
が、その10メートルが、さっきから一向に縮まらない。

登っているつもりで、実はさっきから一歩も動いていないんじゃないかという気がしてきた。
頭痛はないが、もう標高6000メートルを越えている。意識障害かもしれない。
(実際、ここまでの数枚の写真について、撮った記憶もなければ、こんな風にオレンジ色に染まった雪の景色を見た覚えもない。下山後にデジカメで見て驚いた。)

e0040591_11245925.jpg最後の数メートルをどうやって登ったか、何を考えていたか、
記憶は全くといっていいほどない。
ただ吐きそうだったことと、
「あと一歩登ったらもうやめよう」と
繰り返し思っていたことだけを、なんとなく覚えている。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

e0040591_112455.jpg気付けば、そこにいた。

 2005年11月11日、午前7時30分。
 ワイナポトシ北峰 6.088m
 ノーマルルートより登頂。


もういいよね? ここより高いところには、わたしはもうたぶん行けないよ。 
ばいばい。 もうこれで、終わりにしよう。

e0040591_11243136.jpg眼下に雪山。遠くに、チチカカ湖。
この山より高いはずのイリマニ山も、
見下ろす位置にある。

少なくとも、今目に見えている景色の中に、
ここより高い場所はどこにも見当たらない。

e0040591_11261438.jpg午前8時、下山開始。
分かっていたことだけど、下りは登りより数倍怖い。

その上すっかり明るくなっていて、
なにもかもがよく見渡せる。
つまりは、行きよりも高度感がさらに増している。

e0040591_11255299.jpg何メートルも降り積もった雪が、
青白い、不思議な層を形成している。
なんてきれいなんだろう。

今日ここまで登ってきたのはわたしとエウロヒオだけ。
この景色を見ることができたのも。
が、その景色を楽しんでいる余裕はない。
さっきから、もう何度足を滑らしていることか。

その度に雪の斜面を数メートル滑り落ち、
アイススクリューとエウロヒオによって支えられたザイルで停止する。
身体が止まる瞬間、ハーネスに軽い衝撃。

滑らないよう、氷にアイゼンをしっかりと咬ませなければいけない。でももう足の力がない。
その上、真東を向いた斜面では雪や氷の表面が解け始め、つるつると滑るのだ。

1時間以上かかって、ようやく斜面を下りきった。

e0040591_1128790.jpg雪道をまた延々歩く。
解け始めた雪はアイゼンの下で大きな玉になって固まり、
そのせいで何度も転ぶわたしを見かねて、
エウロヒオがわたしのアイゼンを外してくれた。
さっきよりも歩きやすいが、アイゼンを外したプラスチックブーツの底も、それはそれで、しょっちゅう滑る。

行きに苦労した氷壁のところまで来た。
エウロヒオが支柱を使ってザイル確保してくれ、わたしが先に降りていく。
壁がえぐれている所もあり、足を下へ伸ばしてもアイゼンの爪が何にも触れずぞっとする。

e0040591_11285389.jpg下方の支柱まで下り、
エウロヒオに言われた通り、
ザイルの一部に作られた輪を支柱に掛けて自己確保する。
上にいるエウロヒオに「OK」と声を掛けた次の瞬間、
アイゼンの爪が氷壁からはずれた。

ハーネスから伸びるザイルと支柱によって、
体はクレバスに転落することなく、氷壁の途中で止まっていた。

e0040591_11282929.jpgが、体は完全に逆さまになっている。
頭のずっと下に、クレバスが口を開けている。

その瞬間、不思議と冷静だった。
なんとか体勢を戻さなければと、
クレバスに落とすことなく握っていたピッケルを壁に立て、
アイゼンの爪を支点に、反動をつけて体を起こした。
何度目かで、ようやく元の位置に戻る。

起き上がったのち、エウロヒオが降りてくるまでの間、
クレバスの深さを改めて見て、急に怖くなった。・・・死ぬところだった。


e0040591_11305682.jpg午後12時。下山に4時間もかかって、H.C.着。

食欲は未だなく、テントをたたみ、
ガレ場を下ってB.C.を目指す。
雪を吸ったブーツやオーバーパンツは
ザックの中で行きよりも重く、
「こんなにしんどいことは2度とやらない」と
心に誓いつつ山を後にする。


※下山後5日が経って※

ラパスからわずか50kmほどの距離にある Huaina Potoshi 山(6.088m)は、
ボリビア国内に数多くある6000m以上の山の中でも、比較的簡単に登頂できると言われる。

ガイドと2人きりで行った場合、料金は全て込みで約100ドル(1泊2日)。
アイスクライミングの経験がない人のために、中一日クライミング講習を受けることができる
2泊3日のコースもあり、こちらは125ドル~。
いずれも、5~9月のハイシーズンは更に20~30ドル高くなる。
経験のある人なら、もちろん一人で行くことも可能。


ラパスの街に帰ってきたときは心身ともにぐったりで、
プラスチックブーツで締め付けていた両足首は腫れ上がり、
顔は日焼けでがさがさで、クレバスに落ちかけた恐怖も生々しく、
「絶対二度と登らん」と思っていたけど、今になってみれば登ってよかったと思う。
雪山登山どころか、まともな登山も初めて。
トレッキングとは随分違った。しんどさ桁違いだけど、その分見えるものも違った。
・・・・・・でももう、しばらくは登らなくていいな。
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by tomokoy77 | 2005-11-11 00:30 | Bolivia