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そして今夜もマクロフで

一晩中語っても飽きない旅人に出会うことがある。

ベイルート、午後8時。同宿の3人と、近くにあるマクロフの店へ食事に行く。

仕事をやめて旅に出てきた27歳の韓国人、ドゥーヤン。ノルウェーの大学で経済を学んでいる薬中気味の24歳スウェーデン人、アンドレアス。ニューヨーク生まれながらアメリカ嫌いで、中東に15年も住んでいるアメリカ人ジャーナリスト(推定45歳)、ジブリル。


宿から徒歩1分のマクロフの店には、サンドウィッチなどの軽食のほかに、ジュースやアルコール類が置いてある。軽食屋兼商店、そしてTalal's New Hotel に泊まる旅人の溜まり場。わたしはジュースを、あとの3人はジンの大瓶とセブンアップを手にして、店のテーブルに席を下ろす。そしてわたしたちはとりとめもない話を始める。

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旅のこと、自分の国での生活のこと、中東情勢、わたしが出遭った露出狂の話・・・。(アンドレアスは「そんなちっちゃいの、これまで見たことないわ!って言って、蹴り上げてやればいいんだよ」と言った)。果てはこの4人で国を作ったらどんな国にしたいか、自分は何のポジションに就きたいかといった話まで、いくら話しても話題は尽きない。


アンドレアスが、店の膨大なカセットテープのコレクションの中から、”ホテル・カリフォルニア”と書かれた一本を取り出して、デッキにかける。「アメリカは嫌いだけど、この曲はいいだろう?」と言って。
創業1960年のこの店の主人マクロフは、入れ替わり立ち代りにやってくる夜間警護中の軍人の注文をさばくのに忙しい。そのうちの幾人かは笑顔で挨拶をしてくる。ドゥーヤンたちはすっかり彼らと顔なじみのようだ。

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アメリカ嫌いのジブリルが、いかにもアメリカ人といったオーバーリアクションで話し始める。

「先日の核協議の日本は最高だったね!とにかくずっと沈黙を守っていた。ほかの国の奴らときたら、どこの国はどれだけ核を持ってもいいだの、だからうちの国にも核保有を認めてくれだの、喋りまくってさ。これはそもそも協議できる問題か!?核の保有なんで駄目に決まってるのにって俺は思っていた。そうしたら、唯一の被爆国である日本は、ただ静かに黙っていたんだ。沈黙を以ってして、”お前らは全員馬鹿か?”と言っているようだったよ。全くもって正しいやり方だね。あんな奴らと話す必要なんてない」と言った。

「それは、どうだろう?日本人はNoと言ったり、発言するのが苦手だから。それに、自分の発言にかかる責任も避けたかったんじゃないかな?」とわたしが言うと、「そうかもしれないけど、あの時はあれで良かったんだよ。日本人は俺の気持ちが分かってくれてるって思ったね。」とジブリルは言った。


言葉も文化も性別も価値観も、なにもかも違う4人がこうして集まって、お互いに言いたいことをはっきり言い合える。それは、いずれ別れて自分の国へ帰っていく旅人同士だからできること?
民族と宗教の問題が複雑に絡み合ったレバノンの人たちは、こんな風に自由な関係にはなれないんだろうか?だとしたらそれは、本当に悲しくて寂しいことだ。

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by tomokoy77 | 2006-12-07 23:04 | Lebanon  

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